ヘッドハンターにみる起業モデル

前の会社で人事採用に関わる仕事を手伝ったことがある。

主に、新卒候補者(大学4年生)にOB訪問のような形で会い、良い人材を見抜いて行く仕事だ。毎年、平均で20人前後の学生と会うのだが、バブル期など売り手市場の年は、50名近くの学生と会って話をした記憶がある。

昼休みや定時後にアポを取って、喫茶店やレストランなどで会社の理念、現在担当している仕事内容、人間関係、モチベーションなどを話しながら相手の能力や適性、志向、やる気などを見抜いて行く。つまり、0次面接を行うわけだ。そして、好印象の者だけを抽出して、Aランクで1次面接に上げる。残念ながら、大半BランクかCランクで、Aランクで上げる率は大抵1割にも満たない(もちろんこの段階では絶対評価だが)。

中には人生相談のような展開になって、一緒に志望理由や自己PR書などを書くのを手伝ったこともある。また、ある女学生(言い方が古い)が下を向きながら「数十社も受けているのですが、まだどこからも内定をもらえないんです。すっかり自信をなくしてしまいました。もう人生終わりかも...」と涙をこぼす場面があって、「そんな暗い顔をしていたら、面接官だって採用したくなくなるよ。まずは笑顔が大事。明日の心配は明日すればいい。泣くのは明日にして、とにかく今を頑張ろうよ。思いは必ず通じるから。で、うちの会社で何がやりたいの?」となだめたりすかしたりしながら、面接を進めたこともあった。当然だが、いくら優しい(?)私でも、その学生をAやBランクで上げることはなかった。あの女性は今頃何をしているんだろう。

ともかく、私はこの採用プロジェクトへ参画することにより、人事採用というものを初めて面白いと感じたのであった。現職でも何度か希望を出しているが、未だ希望は叶えられていない。

多少関連するが、先ほど、以下のクールな本を読み終えた。


プロ・ヘッドハンターが教えるデキる人の引き抜き方―ビジネス超魔術人材編 (単行本)
古賀 辰男 (著)


ヘッドハンティング(以下、HH)というと、日本ではまだまだアングラなイメージがあって、裏工作的(いわば邪道)な感じがするが、実は、組織を活性化し、迅速に成長へと導く最も合理的で効果的な手法(いわば王道)であることがわかる。

特に印象に残っているフレーズは、以下の通り。

・企業や組織は人(経営層)で変わる
・まずやるべきことは、人事部採用担当に優秀な人材を配置すること
・新卒採用とキャリア採用はまったく別物と捉えよ
・HHとは、単なるスペックマッチングではなく、「格」のマッチングである
・本当に優秀な人は転職を希望していない
・引き抜かれたいのであれば、自ら転職を希望(安売り)するのではなく、現状を全うすべし
・HHが日本を救う

主に、組織の人事部採用担当者へのアドバイスが満載の本であり、候補者の見分け方とか面談時の話し方、心構え、落とし方などの細かいテクニックもよく書かれている。

私は、転職希望者ではないし、採用担当者でもない。もちろん、HHでもない。しかし、「マーケティングを生かしたマッチングビジネス」という視点でHHを見た時、私がやりたいビジネスと重なる。

ニーズと人のマッチングといっても単なる人材紹介業者とは異なり、単なるデータによるスペックマッチングではなく、キャリア採用で必要なのは、「企業と社員間で価値観が共有」できること。つまり、個人の人格と法人格のマッチング(「格のマッチング」)という訳だ。

単に、人材紹介業のデータベースに登録しておけば、定期的に適した企業や仕事を紹介してくれるバーチャルなサービスではなく、実際に採用する側のトップやターゲット(候補者)に会って、自分の五感でマッチングさせるという、あくまでもリアルなマッチングサービスがHHだ。だからこそ、採用後のトラブルがほとんど発生しない。

会社の売り上げや収益率が伸びていない、透明性が低い、人間関係が悪い、自己の成長が見込めないなどの負の要因がある場合、大抵は経営層を変えることで良くなることが多いようだ。

現状、日本の会社や組織は病んでいるところが多い。今こそ、HHビジネスのようなリアルなマッチングサービスが必要とされる時代なのかも知れない。

その意味でも、この本は私の起業意欲をさらにかき立ててくれた。
(そもそも、そういう本だからこそ手に取って買ったのだが)