転職を決意した男

一緒に働いている(業務委託先の)ソフトハウスの男性が、転職を決めた。

正確には「転職を目前に相談に来た」と言った方がよいかも知れない。
要は、少し迷っている様子だった。転職を決めて、転職先もほぼ内定をもらっている状況らしく、もう心は決まっているのだが、顧客である私や周囲の人たちのことを考えると、「とてつもなく迷惑を掛けてしまうので心が痛い」とのこと。

「何を甘えたことを言っている!」と一喝しようかと思った。転職をするのに、迷惑も何もない。残された人間が一時的に苦労するのは仕方の無いことだ。迷惑に決まっている。迷惑を百も承知で転職を決意したのだから、ブレてはいけない。ブレるのは一番罪だと思う。とりあえず話を聞くことにした。

転職の主な理由は、「将来への不安」だった。

このままここにいるのは楽だが、成長は見込めない。単なる「1プログラマー」で終わってしまう。システム開発を一から体系的に学んで、提案→要件定義→設計→開発・運用→維持管理までをトータル的にサポートできるようにしたい。将来はSEとして自立したい。

ここで「現実逃避だ。目を覚ませ!」などと言うのは簡単だ。私は反対も引き止めもしなかった。自分の経験上からも、彼の成長を思えば転職は悪くないと思ったからだ。

だから「周りがどう思う?かではなく、自分はどうしたいの?後悔しない選択はどっち?もし、転職を諦めて、ここに残る道を選択した場合、後で後悔しても僕は責任負えないよ。それはリスクが大き過ぎる。僕の方が先に辞めてしまうかもしれないし。それに、人生、転職のチャンスなどそんなに多くないはずだから、このチャンスを逃す手は無いのかもしれないね。君が辞めるのは本当に残念で惜しいけど、無理やり引き止めても仕方無いので、君の勇気を応援するよ。僕が君ならきっと転職を選ぶと思う。」と一気に答えた。

彼は、しばらく驚いた様子だったが、僕に背中を押されたことで、迷いのない表情に変わっていた。

「転職は出るのも残るのも勇気。だが、私は出ることを選ぶ。これが、マイ・ビッグバン(自己大革命)」。約10年前、自分が転職を決意したときに思ったことだ。
私は転職してまったく後悔していない。むしろ、転職して本当に良かったと思っている。前の会社には本当に感謝している。前職での厳しい経験が随所に生きている。前職で頑張ったから今がある。そして、行った先でも頑張っていれば、またその先が拓けてくる。これの繰り返しなんだよなぁ。私自身、先を考えて、行動を開始したばかり。彼に言った言葉は、そのまま自分への檄でもある。

数日後には内定も出るとのこと。”ファイナルアンサー”が出るまでに時間はさほど掛からなそうだ。