世界を歩いて木を植える男

今日は「世界を歩いて木を植える男(中溪宏一氏)」という講演を聞きにいった。

講演と言っても、マイクなしで車座になって少人数で膝を突き合わせて行うレベルの小講演だった。

参加者は全部で9名だった。みなさん自己紹介も個性的で、積極的に質問されていた。

「志」というか、意識や関心を同じうする人たちは似てくるのかなとも思った。

まず、中溪さんの略歴を紹介したい。

「世界を羽ばたくビジネスマン」に憧れて商社に入る。
インドネシアチェコに計2年半へ長期出張。

チェコでは入社4年目にして工作機械販売事務所の設立を任されるが、
帰国後は本社の空気に馴染めずに5週間会社を休む。

そんな経験を経て、「地球の何処でも生きていける人間になりたい。」
と世界放浪の旅に出る。

2003年、
南アフリカで木を植える男ポール・コールマン氏に出逢い、
その活動内容に衝撃を受ける。
以来今日まで地球を歩き、木を植える活動を続け、今までの
徒歩、植樹活動の実績は徒歩累計距離約5千キロ、植樹本数は
約1400本、170回以上の植樹の殆どを自身で企画している。

2007年夏には徒歩で出逢った仲間達に呼びかけて
アースデイ北海道」を創設。

現在は北海道小樽市に在住、アースデイ北海道の仲間と
「自立した、持続可能な地域作り」を目指しながら、
自身で畑を耕し、日本各地で植樹、講演活動を続けている。

青年版国民栄誉賞と言われる青年商工会議所主催の
人間力大賞2007」で特別賞を受賞。

と、これらの略歴を見ると、どんなごっつい猛者かと思いきや、優しそうな華奢な感じのお兄さんだった。現在36才とまだ若い。

得てしてそんなものだ。表情には表さなくとも燃え滾るほど熱い人はたくさんいる。人は外見では決して判断できない。

中渓さんの小学校2年生の時の「将来の夢」は、「お寿司屋さん」「おもちゃ屋さん」「大学教授」だったという。日本文化の伝承であったり、木の実でおもちゃを作ったり、自然の楽しみ方を教えたり、することが今につながっているのではと分析する。やはり、人間も木と同様に幹の部分は変わらないで、そこから枝が派生して成長するものなのだろうか。

中渓さんが追い求めてきた能力は「サバイバル力」だった。つまり「どこでも一人でも生きていける能力」だ。

そして、「自分探しの放浪の旅」に出たのだ。「それまで敷かれたレールに乗っかってきたので、少し寄り道してみたくなった」という。”会社で一番良いポジションにいる自分”vs”旅をしている自分”を天秤に掛けた。そして、3年9ヶ月の旅へ。

そもそもの動機は、「自分はアメリカで生まれたのにアメリカを知らない。だから、知りたかった。」そう思い立って、ロスへ飛んだ。そして、共同生活をしながら、ニューヨークに向かった。それから、インドで144年に一度のお祭りがあると聞いてインドへ。このお祭りとは、ガンジス川(ガンガー)中流域にサンガムという聖地があって、そこに7万5千もの人々が集まって沐浴をするらしいのだが、その光景たるや想像を絶するほど圧巻だったらしい。何千年前から変わらぬ”太古からの風景”を目の当たりにして衝撃とエネルギーを感じたそうだ。インドの奥の深さのルーツはこの辺にもありそうだ。

ところで、アースウォーカーのポール・コールマン氏(現在54才)とはアフリカでたまたま出遭ったとのこと。話を聞き、衝撃を受け、感動して、一緒に木を植えていく内に、心が通い合っていったとのこと。

アフリカでの生活が一番楽しかったようだ。自然の中で好きなときに好きなことを好きなだけする生活。「自然が一番楽しい」と実感した瞬間でもあったと。それ以外何も要らないと思えるまで、現地の人や生活に溶け込んだ。しかし「これじゃイカン」と日本へ一時帰国する。自分にはやることがあると。自分の役割は「自然への埋没」ではなく「自然と共生すべく人を動かすこと」だと。

余談だが、中渓さんが数多く世界を旅してきて得たノウハウとしては「身体1つあればよい」ということ。一緒に旅したフランスの女性から教わった教訓は「何も決めないこと」と「荷物は必要最低限とすること」らしい。旅を重ねるごとに荷物も減っていったとのこと。中渓さんの旅の三種の神器とは「エアマット」「寝袋」「雨具(上下,ゴアテックス)」とのこと。これだけあればどこでも寝られると。

それにしても、植える木はどこからどうやって調達するのだろうか。大半は現地調達で、最近ではスポンサーなど協力してくれる団体からの寄付などで賄っているとのこと。

ポール・コールマン氏によると、自然環境を破壊する最大の要因は戦争だという。戦争やめて木を植えよう!というスローガンを発信している。そして「アフリカから中国まで歩いて一億本の木を植えること」を目標に活動を続けた。20世紀中に戦争で亡くなった人の数がおよそ1億人だから、その人々のために1億本ということらしい。素晴らしいことだ。アイデアとしては思いつくかもしれないが、それを実践できる人は少ない。しかも、何があっても諦めない強靭な精神力には頭が下がる。

ポール・コールマン氏は弟子は特にいない。「来るものは拒まず、去るものは追わず」が信条らしい。1人でもやる男だ。カッコいい!

また最後の方で「OSEWAプロジェクト」の紹介があった。

これからの産業を支える三種の神器とは「Oil(油)・SEed(種)・WAter(水)」。これらを自給自足できる国が力を得ることになる。

最近のロシアのオイルマネーには驚かされるが、そう考えるとスイカの種さえムダにできない。

最後は、PCのスライドで風景写真や植樹活動のスナップ写真を見せてもらった。風景写真は文句なくきれいで、特に「アフリカのヴィクトリアの滝」、「インドのサンガム」、「アフリカのラスラズバレー」は印象に残った。植樹活動の風景写真はみんなの表情が活き活きしていた。草の根の活動でも、この笑顔があれば世界を救えるんだな、と感じた。

●中渓さんのブログ「ニッポンを歩く、木を植える。(アースデイ・フレンドシップウォーク)」
http://earthwalkerjp.cocolog-nifty.com/blog/

中渓さんの仲間で、やはりポール・コールマンの影響を受けた日本人が、北京からロンドンへ旅立ったとのこと。4年後のオリンピックまでに、木を植えながら歩いて北京からロンドンに到着する計画らしい。一体何本の木を植えられるのだろう。それよりも、本当に歩いてたどり着けるのだろうか?まさに、「グリーン・オリンピック」だ。もう一つのオリンピックとでも言おうか。これで、4年後のオリンピックが楽しみになった。

そういえば、昔TV番組(進め!電波少年)で、猿岩石が香港からロンドンまでヒッチハイクの旅をさせられたが、確か半年間ぐらいだったかな。でも、途中何箇所かで飛行に乗っていたことが発覚したと記憶している。「危険地帯だったため」との釈明もあったような...

ともかく、地道だが、大切でやりがいのあるライフワークだと思う(真似はできないが)。

収入源は主にブログ執筆料と僅かな講演料。東京では暮らせないが、北海道(小樽)では家族3人が何とか暮らせるレベルだという。小樽の家は円形ドーム型のかまくらのような家で、機能性に溢れているらしい。ともかく、去年より暮らし向きは上向いていると聞いて安心した。

ある一人の男との出会いが人生を変えることもある。だから、人生は面白いんだな。

さて、私も歩いて木を植えるか。いやいや、誰もがそんなことをできる訳ではない。世の中には役割分担という言葉がある。みんなが、それぞれのドメイン(領域,分野→役割)で木を植えていけばいいのだ。

キーワードは「自給自足」。目標は「水や食べ物をいつでも確保できるようにしておくこと」。

さあ、私は何の木を植えるとしようか???この木何の木気になる木〜(←またコレかい!)。

とにもかくにも、種を巻かなきゃ芽も出ないのだから。