図書館総合展2008に参加して

今日は冷たい雨の一日だったが、その一方で収穫の多い一日だった。

まずは、午前中から図書館総合展に出かけた。

一年に一度の図書館界のお祭り(?)だ。

図書館に近いところで働いている者にとっては見逃せないイベントなのだ。

書店、出版社、著者、システムベンダー、教員、学生、大学図書館公共図書館、企業図書室などなど、様々な図書館フリークが国内外から集まってくる。

展示会場では、懐かしい顔ぶれに出会った。図書館の外に出られていて戻ってきた人や業界を去ってフリーランスとして活躍している人が顔を出したり、昔一緒に仕事をした方々に出会ったり、今まさに熱く語っている姿を目の当たりにして、大変感動した。

しかし、今回の目的はあくまで、フォーラムやセッションへの参加だ。

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1つ目は「SPARC Open Access Update」。つまり、OpenAccess(OA)の最新動向レポートだ。

□第7回SPARC Japanセミナー2008「Open Access Update」
 主催者:国立情報学研究所(NII)
 時間帯:10:30〜12:00
 登壇者:根岸正光(国立情報学研究所
     永井裕子(日本動物学会)
     Martin Richardson(Oxford University Press
     林和弘(日本化学会)

私は、今までSPARCにはそれ程興味はなかったが、知り合いの日本化学会の林和弘さんの話を聞くために参加した。林さんは、相変わらず多方面に渡って頑張っておられるなと感じた。

国内ではOAはまだまだこれからの領域で、認知度はあるのだが、どう踏み込んでいけばよいのかがわからないところも多く、いまだにフリーアクセスとOAを混同している出版者や図書館があるとのこと。

彼の話の中で、興味を持ったのは、個人で頑張っているOAだ。

それは、坂東慶太さんの運営するフリーのOA「My Open Archive(MOA)」だ。

2008年5月25日にベータ版がリリースされた「眠っている学術情報を公開するサイト」だ。コメントやトラックバック、タグなどが使えるBlogタイプのサイトだ。

さすが、カリスマブロガーだけある。

Scribed iPaper,OpenIDCreative CommonsなどのOSS技術やオープンなライセンスを利用した点も評価に値する。

世は「オープンな時代」なのだ。日本はなぜクローズド・スタンスなのか?これについては、別の機会に議論を回すが、オープンでフラットは魅力である。しかも、欧米型のモデルの真似ではなく、日本型のオリジナルモデルであることが重要だ。

坂東氏の着眼点の面白さは「学術情報の公開状態」を氷山に例えたところにある。つまり、氷上の公開されている論文(2割)はよいとして、水面下にある「未公開の学術論文」やMyOpenArchiveで取り上げる「机の中に眠っている未発表論文やメモなどの膨大なログ」(8割)に光を当てようとしているところだ。さらには、それを独り占めするのではなく、共有知として社会に広めようとしていることだ。

林さんも語っていたが、このように、

図書館、学会関係者以外の人材が、
問題意識の元、
ITスキルを使い、
世界中の技術をマッシュアップして、
手が付いていない領域のオープンアクセスに関するサイトを実際に立ち上げた

ことは大変注目すべき点であろう。

「ガレージスタート」は日本ではあまり見られなかった現象なので、喜ばしいことだ。

IPAP(物理系学術誌刊行センター)、NIMS(物質材料機構)、日本機械学会など一部の学会で、OA化を推進している点も興味深い。今後の動向に期待しよう。

しかし、これに甘んじていてはいけないのだ。そもそも個人の力に頼りきっている状況がおかしいのであって、本来は、きちんとしたビジネスサイクルの中で考えていく必要がある。

そもそも、日本の学術出版は商業主義になっていない。つまりは、電子ジャーナルビジネスが確立していない。

著作権やライセンシング問題などを含めビジネス運営体制を確立して初めてOA化が進む」という主張は、正しいと思う。

但し、これも欧米型の商業主義ではないことを願う。

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2つ目のセッションは、「電子リソースを使いこなす!WorldCatを起点としたOCLCのサービスと今後の展開」として、OCLC New Jerseyの坂口泉さんがプレゼンを行った。

■ フォーラム (3)
【演題】電子リソースを使いこなす!
    WorldCatを起点としたOCLCの到達点と今後の展開
【主催】紀伊國屋書店
【日時】2007年11月 27日(木) 13:00〜14:30
【会場】パシフィコ横浜 会議センター第5会場(定員100名)
【講師】坂口泉(OCLC)
    新元公寛(紀伊國屋書店

坂口さんと会うのは2回目である。坂口さんは米国の図書館関連の技術屋集団「オープンリー・インフォマチックス社(現OCLC)」にも在籍していた優秀なシステムライブラリアンである。

彼女自身は、ライブラリに身を置いてまだ5−6年であり、電子コンテンツしか扱ったことのない方だ。つまり、図書館固有の紙媒体には触れたことがない図書館員ともいえる。図書館員らしくない図書館員?いや、新しい形の図書館員なのだ。

「ライブラリはWebに埋もれてしまっている。ユーザーをサーチエンジンからいかに早く図書館に到達させるか?」がメインのプレゼンであった。

今や、図書館サイトへの導線は、Googleから来るユーザーが8割といわれている。つまり、直接図書館のサービスに来る利用者は2割に過ぎないのである。

だから、いかに、図書館のデータを、図書館そのものを、インターネットに浮かせるかが重要な鍵となる。

そして、プリントも電子リソースも同じ土俵に載せて、一度に検索できるようにする必要がある。

OCLCのWorldCatは冊子に強いサービスなので、そこに電子リソース(ジャーナル、ブック)を載せ、統合検索機能やリンクリゾルバ機能を追加することで、サービスの幅を広げ、ユーザの囲い込みを行いたいところだろう。

リンクリゾルバとは、簡単に言うと、リンク元のソースとリンク先のターゲットの間に入って交通整理を行う役割を持ったサービスである。

大学によっては、まだまだ紙媒体が中心で、紙を管理する人員の方が多いところも多い。逆に、電子は目に見えないだけに、軽く見られている向きもある。

しかし、実は、電子資源の管理は相当に大変なのである。

なぜなら、電子は変化するからだ。紙は買えば現物がそこにあって、基本的には変化しない(雑誌などのタイトル変遷はあるとしても)。一方、電子資源のコンテンツは、基本的には出版者のサイトやデータベースベンダーのサイトにあるから、先方の都合で、URLが変わったり、閲覧可能範囲が変わったり、掲載を止めたりと、日々いろいろ変化するので、それを追っかけるのが大変なのだ。

これからは、もう少し電子資源の管理に人を振り向けないといけない。

日本で、WorldCatの利用価値を上げるにはどうすればよいか?「既存の日本のカタログ情報をまとめて提供できるWebサービスを作る」か「WorldCatに日本語のデータが増えるのを待つ」しかない。

もう1点、面白かったのは、「xIBSN」や「xISSN」といった拡張機能だ。

つまり、1つのコンテンツへのリンクアウトではなく、関連する複数の書誌をまとめて検索できるようにするためのしくみである。まとめるための基準は、xISBNはFRBR独自のアルゴリズムによってきまるらしいが、xISSNの方は書誌データの変遷情報(MARC21のタグ780、785など)から集めてくるようだ。
(この辺りの話は図書館以外の人には何のことだかわからないと思います。すみません。)

要は、これによって何ができるかと言うと「この本を買った人はこの本を買ってます」的な付加価値サービスができるということになる。

最後に、坂口さんは、今後図書館がどうなるかを予測した。

「ライブラリの機能は消えないだろう。検索やファセットブラウジングなどは機械に取って代わることになるかも知れないが、それだけではKAOS状態は解消しない。それらをどう整理するかが問題で、そこに図書館員のノウハウを生かすべき。つまり、レファレンスだったり、データ処理だったり。整理は図書館員が一番得意なのだから。」

これには痛く同感である。

私は図書館員のノウハウを「セマンティック・フィルター(編集力)」と呼んでいるが、それと共通するような気がした。

また、実践女子大学の伊藤民雄先生が作られた「webから無料で使える学術雑誌のダイレクトリ、"Directory of Open Access Journals in Japan"(DOAJJ)」の紹介もあった。

伊藤先生のスゴいところは、自分の大学だけのために作った訳ではなく、皆で共有してほしいとの懐の深い思想から作られているところだ。

こういった取り組みがどんどん出てきてほしいものである。私も、何かしら社会貢献できればと思っている。

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3つ目は、有償フォーラム。さて、1000円の価値はあるか???

【フォーラムB】
日時:15:30〜17:00 第8会場 (主催:丸善?/定員100名) 参加費:お一人様1,000円
演題:『私の理想の図書館丸善ライブラリーニュースアドバイザーの集い(公開編集会議)』
司会:岡本 真氏(ACADEMIC RESOURCE GUIDE 編集長)
アドバイザー:根本 彰氏(東京大学教授)
       竹内 比呂也氏(千葉大学教授)
       山内 祐平氏東京大学准教授)
       常世田 良氏((社)日本図書館協会事務局次長)
       市古 みどり氏(慶應義塾大学理工学メディアセンター)

こちらは、お馴染みの岡本 真さんが司会なので、期待感満載で出席した。それに、竹内先生や市古さんといった、情報リテラシーのプロもいた。東大の山内先生は総長戦とやらで出席できずに残念だったが、弟子の元気のいい大学院生が出席していた。

さて、「私の理想の図書館」とは???

これは、最初から答えがないことはみんな知っていた。しかし、誰もが一番聞きたいテーマなのだ。

パネラーが1一人ずつ「理想の図書館」を語ってから、ディスカッションとなった。

まず、竹内 比呂也先生の「図書館≠機能」というメッセージ。「必要最低限の基本機能を備えていて、そこに知的にインスパイアされる雰囲気が加わった空間」。この言葉は一番心に刺さったかな。

次に、市古さんの「人が楽しく元気に生きるための核、それが図書館」というメッセージ。いかにも大学図書館の現場を渡り歩いてきた図書館員の叫びやリアリティを感じる言葉だ。

そして、司会の岡本さんの「一身独立シテ一国独立スル」というメッセージ。「図書館員はモノマネが上手で、真面目である。故に外界に翻弄される。もっと自立してほしい。自分の軸を持って意思決定してほしい。」という厳しい苦言を呈された。10年間外側から図書館と付き合って見てきた人ならではの感想だと思う。

その他は割愛させていただく。

それでは、私が個人的に思う理想の図書館とは...

1つは「リッツカールトン化した図書館」。つまり、”従業員は最大のお客様”と言える図書館。そして、”おもてなしの心”を持った図書館。

もう1つは、「多少敷居が高くても淡々としている図書館。必要以上にこちらに踏み込まない図書館員」。つまり、プライドを持ってひよらず、ノイズを押し付けずに、さりげない気配りのできる図書館。

合い矛盾するようだが、図書館側から見た理想の図書館と、利用者側から見た理想の図書館、といった観点で考えた。

最後に、岡本さんが、素晴らしい締めをしてくれた。

「理想の図書館とは何か?」なんて、人それぞれ思えばいいのだから、定義なんかしなくてもいいのではないか。大きい図書館も小さい図書館も、都心の図書館も田舎の図書館も、それぞれにいろいろな問題や課題を抱えている。だからこそ、それぞれが置かれた立場でベストを尽くすことが大事なのだと思う。

そして、私の結論。

「真似したっていい。オリジナルよりインスパイアできる図書館を創ろうよ!」

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ともかく、予想以上に達成感&充実感満載の図書館総合展だった。

参加してよかった。有償フォーラムは1000円の価値は十分あった。それどころか、おつりがたくさん来た感じだ。

図書館総合展のあと、お楽しみの「ショーンさん出版記念パーティ」に参加したのだが、既にお腹いっぱいなので、こちらは別ブログにしたい。