王者の迷い、そして克服
TVで世界ボクシング評議会(WBC)フライ級タイトルマッチ12回戦を観戦した。
同級王者、内藤大助(34)選手 vs 同級13位、山口真吾(29)選手の試合だった。
スピード感溢れる試合だった。
特に、カウンターを狙う山口選手のスピードとハードパンチは何度も王者を苦しめた。
しかし、内藤選手は、左手を伸ばしてうまく距離を取り、10センチのリーチ差を生かした中間距離で打ち合う。広いスタンスで頭を下げて放つ独特の右フックは、相手の死角から何度も当たり、相手の出鼻への左フックも有効打となった。
壮絶な殴り合いの末、王者の内藤選手が、十一回1分11秒TKOで降し、4度目の防衛に成功した。
勝った内藤選手だが、試合後のコメントに注目したい。
「オレ、才能ないな。セコンドから『判定勝ちでいい』と言われ、迷ってしまった(内藤選手)」
(毎日新聞提供のYahoo!ニュースより)
これは、単なる謙虚さではなく、本心だったと思う。
山口選手のスピードに押されて、逃げに回りたい気持ちになったことは否めないだろう。
しかし、決して逃げなかった。あっぱれといいたい。
かっこいいな。
実は、今回の試合に臨んで、練習し過ぎたことが仇となった感があるようだ。
トレーナーが「休養を命じた日に練習していたことを後で知った」と明かすように、苦戦の一因はオーバーワークだった。不安から練習しすぎたり、戦前の予想で「有利」と言われると慎重になってしまう「心の弱さ」を克服するのが、今回のテーマだったが、見事にクリアした。
(毎日新聞提供のYahoo!ニュースより)
確かに、受験でも、コンペでも、勝負事で、戦う前から余裕と言われると、逆にプレッシャーがかかる。
「勝って当然」という暗黙の視線に負けてしまうのだ。
それを跳ね除けるのはトレーニングしかないのだが、オーバーワークは逆効果だという教訓だろう。
「急がば回れ」というか、ある程度トレーニングを積んだら、呼吸を整えたり、力の抜きどころを計ったりする方が効果的なのかも知れない。
まさに、ボクシングの極意である『ヒット&アウェイ』や『リズム』なのかな。
まあ、最後は『どれだけ自分を信じられるか』なのだと思う。
それによって「勝つイメージだけを頭に入れて試合に臨めるか」とか「想定外の事態にどれだけ即応できるか」が決まってくるように思う。
「言うが易し、行うが難し」ではあるが。
一方の、山口選手は痛々しかったが、よく戦ったと思うし、とても立派だった。
「(内藤は)懐が深く、入りたくても入れなかった(山口選手)」。渡嘉敷会長は「内藤を誘って、右フックでカウンター狙いの作戦だったが、内藤の懐が深すぎて山口が前に出たがってしまった」と敗因を分析した。
(毎日新聞提供のYahoo!ニュースより)
余裕のなさが裏目に出てしまったのだろうか。
内藤の懐の深さとハングリー精神が勝ち取った勝利に思えた。